大切な住まいを守るためのシロアリ対策
- hiroshi tsukamoto
- 5月13日
- 読了時間: 7分
耐震や断熱の性能については気にされる方が多いのですが、木造にとっては大敵なシロアリの対策は無関心という方が多いように思えます。
そこで、NPO法人ホウ素系木材保存剤普及協会理事長である浅葉健介さんに、シロアリ対策について、浅葉さんが代表を務める日本ボレイト(株)本社に伺い、詳しく伺いました。
インタビューア:塚本浩史(暮らしを移す編集部) 浅:浅葉さん 塚:塚本
シロアリ対策にはさまざまな方法がある
塚:温熱や耐震の等級を気にされる方は多いと思うのですが、シロアリ対策については工務店任せというか、どういう方法があって、それぞれどんなメリット・デメリットがあるか理解されている方はそう多くないと思います。
そこで、本日はそのあたり、一般の方でもわかりやすく解説いただけたらと思いますのでよろしくお願いします。

浅:かしこまりました。一口にシロアリ対策といっても、「土壌の処理」と「木部の処理」とに分かれていて、それぞれいろいろな方法があります。

まず法規の話をしておくと、建築基準法でGL(グランドレベル)から1mはシロアリ対策を施さないといけないことになっています。
「木部処理」は、日本では農薬系薬剤処理が一般的ですが、外壁に通気をとったり、土台に耐久性の高い樹種を用いたり、K3相当の工場処理材を用いたりすることでクリアする方法もあります。弊社が取り組んでいるホウ酸処理も認定された木部へのシロアリ対策になります。
「土壌処理」は、建築基準法では定められていませんが、フラット35を利用したり、長期優良住宅を取得しようとすると、「土壌処理」を行う必要が出てきます。以前は農薬系薬剤による土壌処理が行われていましたが、最近ではほとんどがベタ基礎の採用でクリアしています。
塚:木部処理で、農薬系薬剤処理が一般的なのはなにか理由がありますか?
浅:一番の理由はイニシャルコストが安いことです。施工会社は目に見えない部分、お客さまから特に要望がない部分はなるべくコストを抑えたいと考えますから。
塚:安くて問題がないようならそれが一番だと思いますが、農薬系薬剤処理のデメリットはなんでしょうか?
浅:農薬系薬剤処理の最大のデメリットは5年で効果が切れてしまうことです。5年ごとに再処理が必要となる…つまりランニングコストが掛かるということです。
もうひとつ大きな問題は、壁の内部に隠れてしまう柱に再処理するのは事実上困難になる ということ。壁には断熱材が充填されていますから、それを全部外して再処理するのは現実的ではないですよね。
再処理できるのは床下から見える木材のみです。つまり、建築基準法等で対策が求められいる壁の中の柱などは、実質5年で無処理と同様になってしまうのです。
塚:昔の無断熱の家ならよかったですが、いまはなんらかのカタチで断熱材が入ってますしね。農薬系の薬剤を使うとなると人体への影響も気になります。
浅:以前は施工者の体調が悪くなるほどのきつい有機リン系の薬剤(クロルピリフォス)が使われていましたが、それが規制されて、いまはネオニコチノイド系やピレスロイド系といった薬剤が使われるようになりました。とはいえ、農薬系の神経毒がある薬剤ですから、特に過敏症の方は避けたほうが無難でしょう。
塚:日本ボレイト(株)が取り組んでいるホウ酸によるシロアリ対策は、その点は大丈夫なんですか?

浅:ホウ酸には揮発性が無く、住まい手がホウ酸を摂取する可能性はほぼゼロです。
万が一、何かの拍子で体内に入ったとしても目薬にも使われているくらい哺乳動物には安全なものです。一方、ホウ酸には昆虫や菌類の代謝を阻害する働きがあり、ゴキブリのホウ酸団子もその効果を利用しています。
ホウ酸は、シロアリや木材腐朽菌を制御し、大事な住まいの構造体を守ります。分解もしないので、その効果は恒久的に続きます。

塚:再処理の必要がないということは大きなメリットですね。ではずばりお伺いしますが、ホウ酸のデメリットはなんでしょう?
浅:デメリットというか特性として水に溶けやすいという性質があります。ですからホウ酸は土壌処理には適していませんし、木部でも万が一雨漏りや水漏れがあり処理部分に水がかかると効果が低減してしまう恐れがあるというところは知っておいていただきたい点です。
塚:ということは、逆にいえば施工がちゃんとしていればずっと効果が続くシロアリ対策になるということですね。
浅:はい。通常のシロアリ対策だと5年保証が一般的ですが、ボロンdeガードでは、15年という長期シロアリ保証を付帯しています。ただ雨漏りや水漏れといった問題は日常生活では発見しにくいですし、5年に一度、シロアリの食害がないか定期点検を推奨しています。
塚:定期点検は住まいの健康診断ともいえますし、ぜひやったほうがよいですね。シロアリ被害がなければ安心して暮らすことができますしね。
アメリカカンザイシロアリという新しい脅威に備える
塚:最近、アメリカカンザイシロアリの被害が都内でも話題になったりしていますが、ホウ酸処理は、こうした新種?のシロアリにも有効ですか?

浅:もちろんです。アメリカカンザイシロアリは、日本では1976年にはじめて発見されたので、実はけっこう昔から日本に入ってきていました。ただ最近、輸入家具や輸入木材に紛れて入ってきたアメリカカンザイシロアリがそのエリアで猛威を振るったことでニュースになり、その存在をはじめて知ったという方も多いのではと思います。
このシロアリは他のシロアリとは異なり、土壌に巣を作らず乾燥した木材の中に巣(コロ ニー)を形成します。乾燥材に含まれるわずかな水分だけで活動できるため、住宅の柱や 土台だけでなく、小屋裏などの構造材に繁殖することがあります。
こいつがやっかいなのは、その存在があまり知られていないために被害に気づきにくく、知らないうちに被害が家全体に拡大する恐れがあることです。そして駆除できる業者がほとんどいないことも問題となっています。
塚:イエシロアリやヤマトシロアリは土壌に巣をつくって蟻道を使って木材のあるところまでやってくると聞いたことがありますが、アメリカカンザイシロアリには、法律で決められたGL1mの薬剤処理では対処できないですね。
浅:そうなんです。アメリカカンザイシロアリに食害されないためには、二階や小屋裏といった全構造材で対策しないといけません。なので、最近だとボロンdeガード®を家全体に処理される方も増えてきました。
塚:コストはその分掛かると思いますが住まいを長持ちさせるためにはやったほうがいいですよね。いくら許容応力度で構造計算して耐震等級3を取得しても、肝心の構造材がシロアリに食べられ強度がなくなってしまったら、本末転倒になってしまいますし。
浅:耐震等級3は構造材が健全であることが前提ですから、耐震を気にされるのであれば、シロアリや腐朽菌の対策は手を抜かないのが基本ですね。
塚:二居の場合、環境的に湿度が多いところも多いでしょうし、普段生活していない分、不具合の発見も遅れがちですから、その点でも恒久的に効果が続くホウ酸処理はいいですね。健康に害がないという点も、構造体全体に処理する場合には安心ですし。
浅:アメリカカンザイシロアリは、土壌と行き来しないので、土壌の温度に影響されず、寒冷地でも家の中が暖かければ生息できてしまうという点もやっかいです。移住先や二居を考えている方は、その点でも注意が必要です。
塚:温暖な地域だけでなく、寒冷地でも輸入材や輸入家具を使われる方は要注意ですね。本日は貴重なお話、ありがとうございました。
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