建築家インタビュー vol.2井野勇志さん(アトリエ・カムイ)
- hiroshi tsukamoto
- 2月18日
- 読了時間: 7分
更新日:4月8日

別荘地として人気の軽井沢エリア、コロナ禍でのその人気に拍車が掛かった感がありますが、そんな軽井沢の現状を同エリアに根ざして活躍されている建築家の井野勇志さんにお話しをうかがいました。(編:編集部 井:井野さん)
編:おひさしぶりです。井野さんとは住宅デザイン学校にご参加いただき、そこからのおつきあいになりますが、いま軽井沢で設計されている家は移住や二居の家が多いのでしょうか?
井:そうですね。多いというかほぼ東京からの移住や二居の家を設計しています。そもそも軽井沢に設計事務所が少ないという現状もありますね。
編:何年か前に事務所名を「アトリエ・カムイ」に改名されたと思うのですが、どのような想いで改名されたんでしょうか?
井:単純に以前の名前(Life環境デザイン一級建築士事務所)が長くて言いにくいというのもあって、事務所更新のタイミングで社名を変えたんですが、「カムイ」と名付けたのには、実は堀部さんの影響があったんですよ。
編:え!建築家の堀部安嗣さんですよね
井:はい。京都芸術大学大学院に行っていたとき、堀部さんのスタジオに2年いたんですが、「建築の居場所」という講演会で「建築家は神に代わって風景をつくることを許された唯一の人」と教わり、そのときふと、なにかそうしたキーワードを社名に込めたいなと思ったんです。言語としては英語じゃなくて日本語がいいなと考えていたら「人間の周りに存在するさまざまな生き物や事象のうち人間にとって重要な働きをするもの、強い影響があるもの」という意味をもつアイヌ語の「カムイ」が思いついたんです。それは自分が設計を考えるときにいつも意識していることでしたし、北海道の断熱基準は自分の中でもベンチマークでしたので、アイヌ語を使うのも悪くないなと。
編:なるほど。井野さんは普段設計をされるときには、どんなことを意識されているんでしょうか?

井:まず、土地と建物の関係性ですね。その土地に立ったときに、一番心地よい場所をまずみつけます。その場所を中心に住み、滞在することでいかに心地よく過ごすことができるか、それを解いて、その空間を大切にしながらその他の空間…水周りをどうしようとか、動線をどうしようとかは、自ずと決まってくる感じですね。
編:さきほど、設計されたのはほぼ移住・二居のための家という話がでましたが、そうした家と普通に定住する家とで設計が変わったりするものですか?
井:実は二居として考えていても、軽井沢で暮らしはじめるとこちらに完全に移り住みたいと思う方が多いんですね。別荘で建てた2,3年後に「移住したいんだけどどうしたらいい?」みたいな話になったりします。なので、普通に住宅を設計するのとあまり大きく変えないことが多いですね。
軽井沢の冬は札幌並みの厳しさ
編:なるほど。軽井沢での家づくりという点ではいかがですか?温暖な地域とは違う、注意しなければいけないポイントがいくつかあると思うのですが。
井:軽井沢の冬は雪が降る日は多くないのですが、外気温が北海道の札幌と同じ氷点下10℃以下になることもあるので車庫は必須になります。放射冷却を防ぐ意味でもいいんですが、それがないと朝フロントガラスが凍り付いてそれを溶かすまでクルマを出せないんです。朝、急いでいるときはそれがストレスになりますね。
あと、二居の場合「不在」に思われないように一台クルマを置きっぱなしにしておく方も多いです。もちろんこちらにきた際の「足」として使うという理由もありますが、そのためにも「車庫」は用意したほうが便利だと思います。
もちろん寒さ対策という点では、高気密・高断熱な家づくりも必須事項です。でないと、月の暖房費が5.6万円とかになります。高気密高断熱の家にすれば、月2.3万円で済みます。けっこう大きいですよね。結露の問題もありますし、家の耐久性を考えるとそのあたりをちゃんと設計施工できる専門家を選ぶ必要はあると思います。
編:そういう点では、地元軽井沢の気候を知り尽くした井野さんならではの工夫もあるのではないですか?
井:さきほどお話したように軽井沢はそんなに雪は降らないんですが、降ると氷点下の日は続くので地面の雪や氷は春先まで融けないんです。となると降ったらすぐに雪掻きをしなくてはいけないので接道から車庫までをなるべく短い動線にしておいたほうが楽だったりします。そのあたりは実際に軽井沢に住んでみないと実感できないところかもしれませんね。
あと、雨樋は落ち葉が溜まるから不要と言われてますが、一方でないと氷柱(つらら)ができてそれが落ちてきてアイスリンクができたりしますから、雪止めと雨樋も適材適所で必要だと思います。
編:軽井沢の冬を舐めたらあかんと(笑
井:そうですね。その点でいうと「室内物干しスペース」もできれば用意したい空間になります。冬は氷点下なので外に干しても乾かないですし、春は花粉がつきますし、夏はスズメバチが衣類に紛れ込んだりすることあるので、家全体は大きくなってしまいますが、専用の室内物干しスペースは用意したほうがいいですね。
編:そういえば、住宅デザイン学校の即日設計の課題でもよく「室内物干しスペースが欲しい」はでてきますね。冬だけでなく夏にも有効なら確保したい空間になりますね。
夏も意外と暑い軽井沢

夏といえば、昨年夏に軽井沢に遊びにきたんですが、朝晩は涼しいんですが、意外と昼間暑くてビックリしました。もちろん、都内の35℃ほどは暑くないんですが、32℃くらいは普通にあった記憶があります。
井:年々軽井沢の夏は暑くなっています。10年前はエアコンいらないくらいだったんですが、我が家も3年前にエアコンを取り付けました。夏の冷房としてしか使っていませんが。
編:冬の暖房はなにを採用することが多いんですか?
井:パネルヒーターです。エアコンでも大丈夫だと思うのですが、できれば温熱的な弱点になる窓際に熱源を置きたいというのがあって、窓からの冷気を防ぐという意味でパネルヒーターを採用しています。トイレや脱衣所にも設置することでヒートショック対策にもなります。意外とランニングコストも安いんですよ。
あ、軽井沢ならではという点ではもうひとつありますね。軽井沢は冬に水道管が凍ってしまうので、水道管にヒーターを巻くという対策をやります。これが月に2.3万円電気代が掛かりますが、しっかり断熱設計をすれば、この費用を大きく抑えることができるんです。
編:家の温熱性能を高めるのは冬も夏も効果的ですね。井野さんが普段設計される家はどんな数値なんですか?温熱性能的には。
井:UA値が0.28 C値が0.5程度ですね。この程度あれば軽井沢の厳しい冬でも快適に暮らすことができます。ちなみに耐震等級は3、全棟許容応力度計算しています。

編:温熱環境の「軽井沢事情」はたいへんよくわかりましたが、それ以外の注意ポイントはありますか?観光地という点で工事期間に規制があると聞いていますが…
工事期間の規制がある軽井沢
井:そうなんです。7/25〜8/31は一切の工事ができないですね。もっとも、しちゃいけないといわれなくても、交通渋滞が酷くてできなんですけど(苦笑)。さらに冬は寒すぎて地面が凍って穴を掘るのに苦労したり、コンクリートの品質確保が大変な基礎工事は避けたいんです。そのため、工事できる期間がかなり限られるのが軽井沢の特徴でもあります。なので、工期も余裕をもって考えておいていただけるとよいと思います。職人さんの数も減ってて、人工不足の問題もありますし。
編:そもそも軽井沢はもう住宅を建てる土地がないとも言われていますよね。
井:更地がないので中古付きと土地を買う方も増えてますね。軽井沢駅周辺から旧軽井沢あたりは夏場は観光客でごった返すのと湿気が凄いので、そこを避けて西へ西へと移住先が動いている感じです。西のほうは人口が増えたので小学校の校舎が増築されたりしています。
編:そのあたりも地元ならの情報ではですね。今日は忙しいなか、いろいろとお話いただきありがとうございました!

アトリエ・カムイの作例
事務所名 | アトリエ・カムイ |
住所 | 〒389-0115 長野県北佐久郡軽井沢町大字追分1425-9 |
ウェブサイト | |
別荘実績 | 49軒 |
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