建築家インタビューvol.3 若原一貴さん(若原アトリエ)
- hiroshi tsukamoto
- 2月27日
- 読了時間: 6分
更新日:3月27日
移住や二居の住まいを設計されている建築家や住宅作家に、心地よい二居・移住のための住まいのつくりかたを伺うこの企画、第3回は、ちいさな家づくりに定評がある若原一貴さんです。
若原さんも「住宅デザイン学校」のゲスト講師を何度かお願いしており、自宅が近いこともあり、普段からたいへんお世話になっていますが、改めて「移住と二居」をテーマに、日芸の研究室に伺い、インタビューさせていただきました。(若:若原さん 編:編集部)
インタビュー 塚本浩史(株式会社アドブレイン代表 「暮らしを移す」編集部)

ちいさな家でゆたかに暮らす
編:お忙しいところ大学まで押しかけましてすいません。教授になられてからかなりお忙しい日々を送られていると思いますが、本日はよろしくお願いいたします。
若原さんというと、どちらかというと都心のちいさな家のイメージがありますが、移住や二居の物件も魅力的な家が多いように思えます。今日はそのあたりを深掘りさせていただければと思っています。
若:地方での設計例でいうと、野辺山や八ヶ岳、鎌倉、岡山あたりでの実例があります。たしかにちいさな家が多いですが、決して小さくて狭い家ではなく、空間的には大きな空間におおからに暮らせる家を設計しています。用途で空間を区切るのでなく、大きな空間のなかにあちこちに心地よい居場所がある、そんな住まいが多いと思います。


編:なるほど。若原さんというと開口部を絞って陰翳の美しい住まいのイメージがありますが、空間としてはゆとりのある住まいばかりですね。普段はどのあたりを設計の「とっかかり」にされているんでしょうか?
若:敷地を読み、視線の抜けを考えながらダイニングの位置を決めるところからですね。そこから、キッチンやリビングのソファをどう配置するか決めていきます。
編:さきほど開口部を絞ると言ってしまいましたが、井の頭の家や八ヶ岳の家の施工写真を見ると開口部がパノラマというか、外の景色を部屋全体で愉しむ計画になっていますね。


若:周辺との関係性を読み解いて設計しているので、やみくもに開口部を絞っている訳ではないですよ(笑) 周囲の環境がいいときはその方向に大胆に開いてます。
編:野辺山の家は、内部が板張り仕上げで、白い壁の陰翳が美しい若原さんの家とはかなり趣が違う印象があります。これはなにか意図があったんでしょうか?

若:野辺山の家は八ヶ岳山麓の一軒家のような住まいで、都会的な白い内装の家では落ち着かないというのと、工務店さんの技術力が高かったので木を使った内装にしました。この家は天体観測が趣味の方の住まいで、月見台的な屋上デッキがあるんですが、雨仕舞いを考慮し屋根とは切り離したスペースとして、屋上への天体望遠鏡の持ち込みも考えた設計になっています。
編:野辺山といえば天体観測にはもってこいのところですしね。二居や移住は、その地でどう暮らしたいか、それにどう応えるかが、設計者や施工者にとっては大きなテーマになりそうですね。
ちいさな家、設計の秘訣
編:若原さんの著書「ちいさな家を建てる」にも60のヒントがまとめられていますが、ちいさな家を設計する秘訣があったら教えていただけますか?

若:ちいさな家にしたいと思っても、いざプランが進んでいくともう一部屋欲しいとか、書斎コーナーを付けて欲しいとかなりがちです。となると当然建築費も上がり予算にあわなくなってしまいます。
そんなときは、考え方をドラスチックに変えて、自分たちにとって一番大切なものがなにかを追求してみる。小さな家は、なにかを諦める、なにかを捨てないと叶わないイメージがありますが、逆に家づくりで本当に実現したいことを追求してみるといいと思います。
編:なるほど。譲れないものを決めてもらえると突破口が開けそうですね。
移住・二居に限らずですが、だれに家づくりを託すかはみなさん悩まれると思うのですが、若原さんを選ばれるクライアントはどのあたりが決め手になっているんでしょうか?
若:作風というより、話しやすさというか、会話が成立するかみたいなところが決め手のような気がします。具体的な要望をお伺いする前に「一回お会いして話しましょうか?」とざっくばらんな感じで雑談する「お見合い」みたいな感じから家づくりをはじめています。
こちらがちょっと違うかな?と感じたときは先方もそうみたいで、それ以上は話が進まないですし、逆に価値観があうことがわかればそのあとの設計もスムーズに進みますね。なので、いろいろ決める前に一度打診してもらえたらうれしいですね。場合によっては「建てない」という選択もありますし。
編:たしかに土地も決めて、プランもなんとなく描いてきたりされるとやりづらいですよね(苦笑) 漠然とどんな暮らしをしたいとか、今後の人生とか語ってもらったほうがいいですね。
若:例えば、ゲストルームが欲しいという要望がよく出るんですが、その部屋がなぜ必要なのかを知る必要があるわけです。友人が遊びに来たときに泊まるだけなら、リビングのソファをベッド代わりにして一部屋減らす提案もできますが、将来お母さんを呼びたいというのであれば、それなりの空間を用意したり動線を考えたりする必要があるわけです。
そもそも、そのあたりもあまり深く考えず、思いつきで言っている場合もあります。
息子さんはお母さんを呼ぼうと思っていても、お母さんはいま住んでいるところにコミュニティが確立していて、違うところに引っ越すなんてまったく考えていないなんてことも普通にあるわけです。逆に「一緒に住もうよ」と言ってくれるのを待ってるかもしれない。このあたりは単純に要望を聞くだけでは見えてこないですね。
編:さきほどからお話を伺っていると、若原さんの設計手法は、要望に応えて設計するのでなく、コンサルというか、お悩み相談的な感じなのかなとも思えてきました。
若:そうですね、ファシリテーター的な役割ですね。親御さんだけでなく、夫婦感での意識の違いも当然出てきますし、子育て世代だと、子どもの学校の話も絡んできたりします。そこを時間掛けてやるのが大事かなと。
編:学校の問題は大きいですね。都内からの移住の場合。
若:以前と比べたら東京と地方の情報格差はなくなってきましたし、子育て世代でも移住はしやすい環境にはなってきたと思います。あとはコンセンサスをどうとるか、ヒアリングを設計側でしっかりやって、現場は地方の工務店が地域にあったやり方で施工するというのが理想ですね。実際そのパターンでやった事例もあります。

編:設計と施工が分かれる場合も、工務店の設計施工の場合も、家族間での意思疎通は大事ですね。あと、施工は地域性を理解した工務店がやるのがベストな選択になりそうですね。
こちらにお邪魔する前は、光と影の話とかになるのかなあと勝手に想像していたんですが、家づくりをどうスタートさせるかといった依頼側の話にまで展開して、とても興味深かったです。今年は住宅デザイン学校でもお世話になりますが、どんな講義かいまから楽しみです。本日はありがとうございました。
若原アトリエの作例

事務所名 | 若原アトリエ |
住所 | 東京都新宿区市谷田町2-20 司ビル302 |
Web site | |
移住・二居実績 | 4棟 |
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