建築家インタビューVol.1 松原正明さん(木々設計室)
- hiroshi tsukamoto
- 1月15日
- 読了時間: 8分
更新日:4月8日
移住や二居の住まいを設計されている建築家や住宅作家に、心地よい二居・移住のための住まいのつくりかたをインタビューするこのコーナー。
記念すべき第1回は、「間取りスケッチブック」の著者としても知られ、御自身も西郷村(福島県西白河郡)に山荘をもち、二居生活を実現されている建築家の松原正明さんです。
松原さんには、クライアントのモデルハウスの設計を依頼したり「住宅デザイン学校」のゲスト講師をお願いしたりと、普段からたいへんお世話になっていますが、改めて「移住と二居」をテーマにインタビューさせていただきました。
インタビューア 塚本浩史(株式会社アドブレイン代表 「暮らしを移す」編集部)

別荘地以外の移住や二居の依頼も増えてきた
編:松原さんは御自身でも西郷村に山荘を持たれていて、別荘建築が得意な印象がありますが、どのエリア(地域)の住まいを設計されることが多いんですか?
松:以前は自分の別荘のある西郷村や軽井沢、八ヶ岳山麓といったあたりが多かったんですが、最近では「避暑」というだけでなく、様々な理由で「暮らす場所を2つ持つ」「地方に移住する」という方の依頼で地方に建てることが多くなっていますね。
最近の事例でいうと、クライアントのご実家がある宮崎県延岡市のあたりで16坪の平屋を設計しています。クライアントの旦那さんは完全リモート、奥様は近くの支店に転勤というカタチでお仕事されるようです。
いずれは実家とこちらを入れ替えて使うという想定です。
編:なるほど。このウェブメディアで着目している「暮らしの重心は地方に移す、仕事の軸足は都心に残しておく」という生き方そのものですね。

編:松原さんは、普段どのような流れで設計されているのでしょうか?
松:まず私の作風なり考え方に共感いただき、設計契約を結んでいただいてからヒアリング→ファーストプラン提出という流れになります。ヒアリングは、チェックシートを用意してますのでそちらをご記入いただくようお願いしています。
ファーストプレゼンは手描きの1/100の図面で。スケッチアップで3Dに立ち上げて見ていただく場合もあります。
編:松原さんの手描きスケッチは味わい深くて好きなんですが、それが3Dで立ち上がった感じですね。お客さんも暮らしのイメージが沸くと思います。

二居の住まいを建てる際の注意事項
編:普段、二居や別荘の設計をされるときに、気をつけておくとよいことがあったら教えていただけますか?
松:移住の場合は普段どおりの設計になりますが、二居の場合はあまり大きい(広い)家にしないほうがよいですね。
別荘を建てると「お友達が泊まりにくるから」と個室をたくさん設けがちですが、そういうことは最初だけでお友達が一巡したらそういう使い方はほぼしなくなります(笑)
せいぜい一部屋用意しておくか、代用できる空間をつくっておけば大丈夫です。広い家にすると掃除もたいへんですし、当然冷暖房費も掛かります。無駄なくなるべく小さくつくるのがまず考えたいポイントですね。
なんなら独立した玄関もいらないかもしれません。なるべくひとま空間にして、家の大きさにこだわるより家の性能(温熱・耐震)にお金を掛けたほうが快適で安心な住まいになります。
いらないものでいうと、「雨戸」も必要ないと思います。
防犯上要望が出ることが多いのですが、留守中日光が入らないとカビの発生につながりますから、雨戸で日光を完全にシャットアウトしないほうがよいです。
あと、気にしたいのは夏の虫対策ですね。
別荘地だとカマドウマやカメムシが大量発生することがあります。ヤツらは暖かいところを探して忍び込んでくるので、私の場合、戸袋はスリットを設けて日光が差し込むようにしたり、(虫が住み着きやすい)小屋裏を設けず勾配天井にしたりしています。

編:山中の虫対策は都心ではなかなか想像しにくいですね。虫の多さは自然に囲まれていることとのトレードオフではあると思いますが、設計で対応できる部分は施しておきたいポイントですね。
松:そうですね。ロケーションの良さでいうと屋外で調理や食事をしたくなるので、深い軒の出や屋根がある外空間をつくっておくと、ゆたかな二居生活が実現できます。突然の雨にも対応できますし、デッキの持ち(耐久性)も変わってきます。


編:なるほど。では、松原さんが実際に設計され利用している西郷村の別荘について、どんな住まいなのか、簡単に教えていただけますか?


松:西郷村の家は、敷地としては450坪あり、雑木林に囲まれた南斜面のきつい傾斜地に建っています。
敷地を造成せず平屋建てにすると、建物と接する地盤が3m以上の高低差がでるので、それを設計で解いていきました。
解決策として考えたのは「わける」「まげる」「ずらす」「かこう」です。
わける
居間棟と寝室棟のふたつに「わける」居間棟からトイレに行くには一度外へ出なければならないんですが、二棟の間を行き来する度に外の自然を感じることができるのでは…とポジティブに捉えました。
まげる
それぞれを二間半 × 五間、12.5 坪の同じ大きさにして傾斜の緩やかな場所を選んで角度をつけ「まげる 」ことで、二棟に角度をつけた事で出来た外デッキの裏側の小さな三角形部分は物干しや外流し・物置など裏方スペースを生み出しました。
ずらす
傾斜にあわせ二棟の高低差を 1 メートル「ずらす」ことで、二棟を行き来する外デッキの部分を跳ね出した軒で重ねることができ、雨の日でも濡れずにすむようになりました。また、ずらしたことで視点が変わり、外の景色を見ることもできます。
かこう
高低差のある二軒の建物の外デッキを囲うことで、傾斜地の中で平らな遊びの床となり、外部リビングにすることができました。

編:マイナスになりそうな条件をうまくプラスに転じさせる設計はさすがですね。分棟にしたことでご友人たちが遊びにきたときもプライベートな空間も確保できますしいいですね。
二居暮らしの実際
編:この西郷村の別荘にはどのくらいの頻度で行かれているんでしょうか?あとそちらではどうやって過ごされているか教えていただけますか?
松:子どもが小さかった頃は家族で足繁く通いましたが、いまは月に一度3泊するくらいです。
別荘での過ごし方ですが、時期にもよりますが冬の時期は生ハムをつくったりして愉しんでいます。冬になる前には薪割りもしないといけないですし、ここにくると意外とやることがたくさんあります。のんびりしに来るというより、人生を愉しみにくる感覚ですね。
編:確かに別荘暮らしは掃除とか洗濯、料理とかいろいろやることありますね。てまひまを惜しまない方は、こうした二居暮らしは愉しめそうですね。

別荘に入れたい設備2選
編:別荘地は夏は涼しくてよいのですが、標高が高いこともあり冬は雪が降ったりして寒そうですね。そのあたりの対策はありますか?
松:そうですね。別荘の場合、薪ストーブと空気集熱(ソーラー)式※の床暖房を提案することが多いです。空気式集熱の床暖房は昼間勝手に外気を取り込んで家中を暖めてくれるので、太陽がでていれば留守中も換気暖房ができて、冬、別荘に夜到着したときでも、ほんのり家が暖かいという状態をつくれるので本当にオススメです。薪ストーブをつけて暖を取るにもけっこう時間が掛かりますから。
※空気集熱(ソーラー)式床暖房
冬、軒先から外気を取り込み、屋根で暖めてファンとダクトで床下のベタ基礎コンクリートに蓄熱して家全体を換気暖房するシステム。
東京藝大の奥村昭雄氏が考案した「OMソーラー」や「そよ風」といったシステムがそれに当たる。
空気集熱式ソーラーや薪ストーブを採用することで、自然をシャットアウトして機械的に全館空調する家より、体感的に「心地よい」と思える家になると思います。
あと、薪ストーブは温熱的にも有効ですが、視覚的にも「暖かく」なれる装置です。揺らぐ炎を眺める時間は最高ですよ。

編:夜別荘についてから、薪ストーブに薪を入れてだんだん暖かくなるのを炎を愛でながら待つというのは格別な時間だと思いますね。ウイスキーグラス片手に生ハムつまみながらでしたらならなおさらですね(笑)
松原さんのお話を伺って、二居のための住まいは、暮らしを愉しんだりアクティブになれる装置であるべきだなあと感じました。
本日は、貴重な時間をいただきありがとうございました。
松原正明さんの作例
木々設計室 一級建築士事務所について

事務所名 | 木々設計室 一級建築士事務所 |
代表 | 松原正明 |
住所 | 〒175-0092 東京都板橋区赤塚5-16-39 |
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二居・移住実績 | 15棟 |
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